旅先で、自分自身を少しだけ変えてくれる、小さなきっかけに出会えたらいいな。
そんな、適わなくてもいいけれど、できれば適ってほしいような期待をお持ちの方は、ぜひ阿字ヶ浦の宿、満州屋へ。
茨城県の海辺の街、ひたちなか市阿字ヶ浦。海辺の観光でひっきりなしに盛り上がっている場所……ではありません。
もちろん、夏には夏らしい賑わいがあります。
それでも、この海辺の一番の魅力は、季節を問わず、世代や背景を超えた多様な人たちが集うこと。お祭りのような賑やかさはないけれど、互いに「楽しい時間を過ごしたい」という想いを共有しながら、自由な時間を育んでいます。
みんなが集う場所は、戦後からこの地で営まれる宿「満州屋」と、波音がBGMのコワーキングスペース「イバフォルニア・ベース」。
阿字ヶ浦では、この二つの場所を中心に、人と自然と、自分に出会う時間をゆっくりと過ごせます。
まずは、宿の紹介の前に、阿字ヶ浦を語るうえで欠かすことのできない、この街のストーリーについてお伝えさせてください。
満州屋とイバフォルニア・ベースがある阿字ヶ浦。
かつては「東洋のナポリ」と言われるほどに海辺や街が栄えていました。
遡ること大正時代。民間企業、行政、そして地域住民が力を合わせて発展させたこの街は、全盛期の1980年代は、新聞で「日本一の海水浴場」と言われるほどに成長。ひと夏に300万人もの観光客が訪れたこともあったそうです。
「車の渋滞が栃木県まで続いていた、なんて伝説も聞いたことがありますね」
満州屋の若旦那・ノブさんこと小池伸秋さんは冗談っぽく語りますが、あながち嘘ではないのかもしれません。
しかし、常陸那珂港開発による砂浜の減少や、90年代のサーフィンブーム終息に伴い、観光客が大幅に減少。極めつけは、2011年の東日本大震災による大打撃で、同年夏の観光客は、過去最低の約17,000人。
にぎわっていた街の景色は、時を経るほどに閑散とした場所へ。
地元で生まれ育ったノブさんも、街の全盛期と斜陽を目の当たりにしながら、阿字ヶ浦の街や暮らしに想いを巡らせていました。
街の様子を見ながら、「もっと豊かに過ごせる海になったら」と想いを馳せていたのは、ノブさんだけではありませんでした。
そんな中、ノブさんをはじめ、地域への想いを共にする人たちが集まって生まれたのが、地域団体「イバフォルニア・プロジェクト」。設立は2018年。「100年先も豊かに暮らせる海(街)をつくる」という大きなビジョンを掲げ、活動をスタートさせました。
イバフォルニア・プロジェクトでは、街のにぎわいに繋げていく海辺のマルシェ「イバフォルニア・マーケット」、多様な人が気軽に訪れるコワーキングスペース「イバフォルニア・ベース」、海辺を舞台にしたワーケーション「アジケーション」の企画運営を実施。週末にふらっと参加できるミニイベントも数多く開催してきました。
ノブさんたちの取り組みに関わってくれる人の中には、「たまたま参加したイベントが面白かったから、ボランティアとして運営を手伝うようになった」という人もいます。
「これまでの阿字ヶ浦は、『夏は賑わい、春秋冬はガラガラ』という状態でした。これからは、季節に関係なく、多様な人たちが足を運んでくれて、もっと自由に、豊かな心で過ごせる場所にしていきたいですね」
ノブさんは、そんなふうに活動への想いを語ります。
イバフォルニア・プロジェクトの活動を続けながらオープンさせたのが、コワーキングスペース「イバフォルニア・ベース」。利用者からは「ベース」と呼ばれています。
普段は接点が生まれない世代や職業の人たちと、思わず会話に花が咲くのが、ベースの魅力の一つ。
ちなみにここは、満州屋と道一本で行き来できるので、満州屋に泊まりながらベースで思い思いの時間を過ごすのが、定番の一つとなりつつあります。
やってくるのは、地元の人はもちろん、イベントを通して知り合った人、テレワークで過ごす人、仕事場として使う人などさまざま。宿のサブスクリプションサービスで訪れる人もいます。
特に用事が無くても、なんとなく来て、コーヒーを飲んで、たまたま出くわした人とおしゃべりをして帰る、という人も少なくありません。
「初対面の方とのお話が盛り上がって、居合わせたみんなで急遽ご飯会を開く、なんてこともありますね」と話すのは、ベースのコミュニティ・マネージャー、通称コミュマネさん。
複数いるコミュマネさんは、世代も背景も価値観も異なる面々。それでも、口をそろえて
「ここに来る人たちは、年齢や立場に関係なくいいコミュニケーションをとってくださいます」
「それはきっと、『みんなで良い時間にしたいよね』という価値観を抱いているからではないでしょうか」
と、日々の出会いと交流を語ります。
ノブさんもコミュマネさんも、この場所で少しずつ人や自然や自分自身に出会う切っ掛けを分けてくれます。
「たくさんの人に、阿字ヶ浦やベースのファンになってほしいです。でも、こちらから押し付けるのではなく、来てくれた人とたくさん話をして、互いに理解しあいながら、少しずつ良い雰囲気を育んでいきたいと思います。そしてまた他の人たちにもその雰囲気をつなげながら、この場所の魅力に出会ってもらいたいですね」
この街で良い時間を過ごしたい。そんな想いを抱く人たちが集う阿字ヶ浦。
かつての「日本一の海水浴場」は、一度は寂れ、閑散とした場所になってしまいました。しかし今では、多様な価値観を持つ人々が、自由で豊かな時間を過ごすために訪れる街になりつつあります。
ここからは、阿字ヶ浦になじみがない方に向けて、満州屋やイバフォルニア・ベース、海辺、街なかでのお勧めの過ごし方をご紹介します。
一人で過ごす
明確な目的が決まっていなくても、まずは阿字ヶ浦にお越しください。静かな砂浜を歩く穏やかな時間は、普段は忘れがちな自分自身に出会わせてくれます。
利用者からも「自分の部屋のように使える」と評されるイバフォルニア・ベースで、たまたま見つけた本を読んだり、思い出したかのようにPC作業をしたり、という過ごし方もおススメ。
コミュマネさんも、ぜひ声をかけさせていただきます。
偶然出会う
満州屋やイバフォルニア・ベースに偶然居合わせた人たちと一緒に、おしゃべりで盛り上がれるのも楽しさの一つ。初対面ではちょっと話しかけるのに勇気がいるかも……という方にも、ノブさんやコミュマネさんが、おしゃべりのきっかけを作ってくれます。
様々な世代や価値観をもつ人と生み出すコミュニケーションは、自分の中に、新たな視点や考え方を育んでくれます。中には、「職場だけでは決して持ちえなかった考え方ができるようになった」という方も。
仕事をする
満州屋・ベースともに、電源やWi-Fiが完備されているので、テレワークや、レポートを片付けたいときのワークスペース代わりとしても使えます。自慢は、海がすぐそこにあること。満州屋からは徒歩5分、ベースからは徒歩10秒で砂浜に到着。集中とリラックスをテキパキと切り替えながら、一日のタスクをどんどん消化できるはず。
参加する
阿字ヶ浦の海やイバフォルニア・ベースで行われるイベントに参加したり、イベント企画者になって出展したりしてみるのも楽しみ方の一つ。家庭でも職場でもない場所だからこそ、世代、性別、立場に影響されず、さまざまな人たちと出会い、多様な関係性を築くことができるはず。そこから、さらに面白い展開が生まれるかもしれません。
街や自然に向き合う
海水浴はもちろんですが、SUPやアーシング、神社の散策、灯台からの眺めなど、阿字ヶ浦で自然を体感できる要素はたくさんあります。まずは散歩がてら海辺の街を探検してみてはいかがですか。
気分転換にも最適ですし、発想力が高まって新しい出会いに繋がるかも。
気になる方は、SUPにチャレンジして、空と海に囲まれる時間を体感してみてください。阿字ヶ浦の海は波が穏やかなので初心者にもおススメ。乗り方は、ノブさんやSUPが得意なコミュマネさんが教えてくれます。
静かに語らう
スマートフォンもカメラも鞄にしまい、波の音を聞きながら砂浜にたたずんでみてください。海と空しかない場所で、自然と生まれる会話にじっくりと向き合うのも、大切な時間の使い方です。
阿字ヶ浦で泊まる場所は、ノブさんが営む宿「満州屋」。
ドミトリーと個室を用意しておりますので、一人でもグループでもご利用いただけます。また、併設のキャンプ場ではキャンプサイトやグランピングサイトもありますので、焚火やテントをご希望の方は、ぜひお申し付けください。
ドミトリー
個室
共用スペース
キャンプサイト
最後に、満州屋の若旦那・ノブさんから、阿字ヶ浦に興味を持った皆様へのメッセージをお届けします。
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「満州屋」や「イバフォルニア・ベース」では、これまでにたくさんの方が訪れ、一つのコミュニティを形成してきました。それは決してハードルの高いものでもなく、また誰かを拘束するでもない、とてもゆるやかなコミュニティです。希望すれば、訪れたその日からコミュニティの一員ですし、だからといって何かやらなくちゃいけないことが発生するわけでもありません。
イバフォルニアの活動を通じて大切にしてきたのは、「がんばらないこと」です。
がんばること自体はとても大事ですが、そのために自分自身を犠牲にしてしまっては本末転倒。そしてこの場所を慕ってくださる方々の中には、「がんばらない」姿勢に惹かれている方も少なくありません。
人間関係が希薄になりがちな現代こそ「満州屋」や「イバフォルニア・ベース」のような場所、そしてそこで育まれるコミュニティが、社会インフラとして必要だと実感しています。生きづらさを感じている人やモヤモヤを抱えている人にも訪れて欲しい。
ここでは、家や職場とは違った、その人なりの居場所を提供できると思います。
訪れた方が阿字ヶ浦の人と自然と街に出会い、時には自分自身とも出会いながら、心豊かに暮らしていく助けになれれば嬉しいです。
海はワイワイ賑やかなイメージかもしれませんが、阿字ヶ浦のオフシーズンは、落ち着いてゆったりできる空間。のんびり過ごすにはもってこいです。ただただ海を眺めてぼーっとして欲しいです。
海は心のリセットにぴったりですから、人生の分岐点に立っている人は、改めて振り返ってもらったり、新しい自分をみつけてもらったり、そんな風に見つめ直すタイミングにもおすすめです。
僕らは海辺に居を構える宿泊事業者として「海」を提供してきました。かつては「海水浴」でしたが、現代のような多様な価値観が交差する時代では様々な「海」の楽しみ方が可能だと感じています。「海」をもっと気軽に、もっと自由にあなたの好きなように楽しんでください。