近所を歩いて、町の人とあいさつを交わし、道端の猫を愛でて、明るいうちに宿に帰ってくる。お気に入りのシーツとファブリックがある部屋に戻って、本を読んで、月あかりとともに過ごす。
そんな、ガイドブックには載っていない、なんでもない時間を味わうことこそ、実は旅をする理由なんじゃないか。
忙しい毎日に埋もれて、したくてもできていない理想的な生活。静かで満ち足りた生活こそ、実は旅の中に見つけられるんじゃないか。
そんな想いに応えたくて作ったのが、月と海なのです。
ヒントにしたのは、イタリアのアルベルゴ・ディフーゾ。
「分散した宿」という意味で、町全体を丸ごとひとつのホテルに見立てた、観光化の取り組みです。
ホテル内に全ての機能を持つのではなく、食事は町のレストラン、お風呂は町の銭湯、レンタサイクルは町の自転車屋さん。そんな風に、町に元からあるものを活用して、町全体でもてなすのです。
月と海がある長崎・茂木は、もてなしの資源であふれています。茂木に広がる橘湾は、豊かな漁場。料亭文化が栄えていたため、高い調理技術も残っています。
朝には小さな市が立ち、地元の人が毎日買いに来るパン屋さんがあります。それらを巡って、満喫して、帰ってくる場所として、月と海がどんなホテルであるべきかを考えました。
ですから、月と海の館内にも、茂木や長崎を感じるきっかけを、多く用意しています。入り口にかかるのれんは、茂木の名産品である枇杷で染めたもの。お部屋には、枇杷の葉を使ったお茶と、茂木の銘菓を用意しています。
ファブリックやアメニティも、月と海の世界観を表現するために、一から仕立てました。お部屋には、長崎市内のひとやすみ書店にセレクトをお願いした本が置かれ、同じく市内のフラワーショップgläntaが束ねたドライフラワーがさりげない彩りを添えます。
お部屋ごとにしつらえを少しずつ変化させ、どんな気分の時にも、自分にしっくりとくるお部屋が提供できるように、考えました。
そして、私たちのこだわりは、お部屋だけではありません。1階にある「波まち食堂mog」は、茂木や各地の食材を使った料理を、茂木では珍しくワインに合うように仕立てたカジュアルな食堂。
船着き場のように段が下がったドッグラウンジは、ゲストが靴を脱いでくつろげるほか、地域での集まりごとにも使われていきます。
ほかにも、ここには書ききれないほど多くの人のアイデアや技術を持ち寄って、月と海は完成しました。きっと、茂木のこの場所でしかできない固有の体験を、持ち帰っていただけるはず。。。
どうぞ予定を詰め込みすぎず、手ぶらで近所を散歩するように、遊びに来てくださいね。